Natsu life

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うさこちゃんシリーズの隠れた力〜ひらがな覚え立てでも読みやすい


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暑い日が続きますね。体調管理も大変です。

3歳3ヶ月になった娘は本が大好きで、暑くて外に出られないときは家で読書を堪能してくれるので助かります。

そんな娘がひらがなを覚えたのは3歳少し前。突然開花したかのように、一気に読めるようになりました。子どもが文字を覚えるプロセスはなんとも興味深いもので、文字を覚えたてでも読みやすい本とはどんな本だろうということを、娘を観察しながら考えていました。

保育園に行っている時間もあわせたら、1日に何冊も本を読む娘ですが、最初のうちは読みやすい本と読みにくい(読めない)本が明らかに分かれていました。

その中で特にすばらしいと感じたのが、「うさこちゃんシリーズ」。

言わずと知れたディック・ブルーナのシリーズ本です。その数はかなり多く、対象年齢も0歳から4歳までに分かれています。

我が家にあるのは「うさこちゃんとゆうえんち」

さらに図書館では同シリーズの本を片っ端から読んでいきました。借りてきた10冊がすべてこのシリーズだったこともあるくらいです(小さくて軽いので大人は助かります)。娘と一緒に読んだり、読み聞かせたり、娘が私に読んでくれたりを繰り返していくうちに、この本の本当の良さに気がついたのです。

前置きが長くなりましたが、この本のいい点を、文字を覚えたての子どもがつまずくであろう(少なくとも娘はつまずいていた)問題点とともにまとめていきます。

すべてひらがな

これは基本中の基本です。ひらがなから覚えた子であれば、おそらく最初はまだカタカナが読めません。ものすごく文字が少ない本であっても、意外とカタカナが潜んでいます。

最初は文字が少ない本が読みやすいのは確かですが、0歳や1歳児向けの絵本を選ぶと、そもそもが読み聞かせを対象としていることもあり思いのほかカタカナがでてきます。

その点、うさこちゃんシリーズは全部ひらがなです。

ひらがなすべてを覚えてしまえば、読めない文字は出てきません。

強いて言えば、句点(。)とカギ括弧が使われているくらいでしょうか。ちなみに、読点はありません。これもまた、読みやすさにつながっているのかもしれません。読点が文中にいくつか出てくることで、読点前後(特に直前)のひらがなが分からなくなることがあったように思います。

子どもの話し言葉にとことん近い

続いては、表記の仕方です。

文字を覚えたての頃は、まだすらすら読めるわけではありません。1音1音発音してみたところで、文章として理解できていないことも多いです。最初のうちはほとんど理解できていないと思った方がいいかもしれません。

娘の場合、1行すべてを読み終わった(文字を発音し終わった)ところで、「今なんて書いてあった?」と聞いてくることがよくありました。

大人でも外国語を習うとき、とりあえず見たままに読むことはできるのに、さっぱり意味が頭に入ってこなかったという経験はありませんか?きっと、あの感覚に近いのでしょう。

この問題を一気に解決してくれたのが、この本でした。

このシリーズは、正しい日本語では書かれていません。その代わり子どもの話し言葉に近い表現が使われています。

例えば、

「私」→「あたし」
「もう一度」→「もいちど」
「ジュース」→「じゅうす」

これらは正しい日本語ではありません(「じゅうす」は間違ってはいないかもしれないですが)。でも、自分がいつも話している言葉に近いこれらの単語は、文字をひとつずつ発音したときに単語としてとらえやすいようです。

会話の前後で文章が切れていない

うさこちゃんシリーズには、会話を意味するカギ括弧は出てきます。よく、カギ括弧のある文章で次のようなものを見かけます。

あるひとうさんが「きょうは みんなで ゆうえんちへいこう」といいました。

これだと、「あるひとうさんがいいました」という文が『きょうは みんなで ゆうえんちへいこう』という会話で分断されています。

ところがうさこちゃんシリーズだとこうなります。

あるひ とうさんが いいました。
「きょうは みんなで ゆうえちへいこう」

また、会話が先にくるパターンもあります。

「ばんざい ばんざい うれしいな」と
うさこちゃんは よろこびました。

いずれも、文章が会話で分断されるスタイルではありません。

ただ、すべてがこの形になっているかというとそうではなく、例えば次のような表現もあります。

1じかんほど はしると とうさんが
「さあ もうすぐだ」と いいました。

ほかにはこんなのも。

うさこちゃんが てつぼうで くるり
くるり してみせたので「じょうずねえ」と
かあさんは おどろきました。

どちらも文中にカギ括弧がきています。

ただこのカギ括弧、長くはありません。

すべての本を確認したわけではありませんが、全体的な傾向として、一言を表現したカギ括弧は文中に、長めの文章をくくったカギ括弧は独立して書かれているように感じます。

会話表現のもう一つの特徴としては、「誰が」という情報がほとんどすべてにおいて書かれていることです。

まだまだ読解力の乏しい子どもが読んだとき、これらの配慮はとても手助けになっているようでした。

うさこちゃんシリーズの生い立ち

実は、読み聞かせをしていた頃、私はこのシリーズがあまり好きではありませんでした。なんとなく独特なリズムと、正しくない日本語の言い回しに少しばかり抵抗を感じていたのかも知れません。

それが、娘が自分で読むようになると、見方が180度変わりました。この本は、娘の読解力を確実に上げてくれました。

そんなある日、うさこちゃんシリーズが日本で発売されるに至った経緯を知ることになりました。

紹介されていたのはこちらの本です。

著者の松居直(ただし)さんは、うさこちゃんをオランダから日本に連れてきた当の本人です。そして、松居さんに選ばれた訳者は石井桃子さん。多くの海外絵本を翻訳されている方なので、手元にある絵本をよく見てみると石井さんの名前をたくさん見つけることができるかもしれません。

うさこちゃんシリーズを翻訳するときのことがこう書かれていました(「松居直のすすめる50の絵本」より)。

この絵本を生かしきる日本語訳は、石井桃子先生以外には考えられず、お願いしましたら、先生はオランダの婦人の朗読で、オランダ後の音声やひびきやリズムを耳で確かめ、その美しさや楽しさをいかした日本語訳をされました。
(中略)
この絵本の世界が幼い子の耳と心にひびくのは、石井桃子先生が原文の世界を自分のものとして、それを自分の言葉で語っておられるからなのです。

これを読み、うさこちゃんシリーズの奥の深さを知りました。

ちなみに、この絵本ガイドもなかなか面白いです。

松居直さんは、福音館書店の月間絵本「こどものとも」を創刊した方で、絵本に対する思いに満ち溢れています。すでに読んだことのある絵本でも、今回のうさこちゃんシリーズのように、その絵本が持つ本当の魅力に気がつくこともあります。もちろん、絵本探しに役立つことは間違いありません。

サブタイトルに、「大人のための絵本入門」とあるだけのことはあり、絵本に対する見方や考え方が鍛えられ、おすすめです。

これからも娘はきっと、うさこちゃんに見守られながら成長していくでしょう。そして私も娘に負けず、この大人の絵本入門書と共に成長していきたいものです。